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第5話 「ゲームで稼げる?」

作者: 詩乃宮
last update 公開日: 2026-07-02 11:00:43

 アパートの中に入ってすぐ右手の部屋に皇は通された。

「とりあえず、此処はてめぇの部屋な。此処は俺は入らねぇようにするから好きに使ってくれよ」

「え、まさか部屋まで……!?」

 正直リビングの住人になるだろうことは必須だと思っていた皇は部屋を用意してくれていた、という事実に目を丸くする。

「つっても大して掃除されてねーから、掃除するまではリビングで寝ても大丈夫だ」

「いやいや、まさか部屋まで用意してもらえるなんて……うはあ……マジ大旦那様様……」

「俺に惚れてもいいんだぜ?」

 そう顎の下に人差し指と親指を立ててかっこつける薊。そんな薊に縋るように感謝を示す皇。

(うん、本当性別が違えば確実に惚れてたわ)

 皇は立ち上がってその部屋に恐る恐る入れば、部屋の入口の電気をぱちり、とつける。そこは狭い、テレビ一台が置かれただけの畳部屋だった。多分6畳もないんじゃないだろうかという狭さ。だけど、元の遊城の家よりも確実に落ち着く、いい部屋だった。

 早速スーツケースを下ろす。1時間と少しの長旅でくたくたになった体が物理的に荷物を下ろしたことによって軽くなる。

 そうして、肩の凝りをほぐすようにぐるぐると腕を回し、皇は早速大して内容のない荷解きをしようとスーツケースを倒して開けた瞬間だった。

「はあああああああああああああああああああぁ!?」

 唐突なる薊のビッグ声量。その声を聴いた皇の肩はビクゥッ、と爆発音でも聞いたかのように揺れる。

(なんだなんだ……!?え、不味いもんもってきたか!?)

 皇は恐る恐る家主である薊の顔を見る。ここで、追い出されるなんてことになったら相当不味い。

だが、皇の予想に反して薊は———目を輝かせて皇のスーツケースの中身を見ていた。

「お前、このゲームを持ってやがったのか! しかも二台!?これ、めちゃくちゃ高いんだぞ、知ってたのか!?」

「え、ええ……知らん……」

 困惑をしながら皇は薊にこのゲームを手に入れた顛末を話す。もちろん、R-18部分は取り除いて。彼女ともいえない元彼女から投げ渡されたものであるということ、転売してやろうと思って持ってきたこと。

 すると、薊は右手をブンブンと振って言うのだ。

「売るなんて勿体ねぇ!いや、でも、もう元カノを思い出したくなくて売るなら……で、でも、勿体ねぇ!」

 なにやら葛藤をする薊を訳も分からずに凝視する。すると、その皇の様子から彼がなにも理解していないことを察知したのか、薊が握りこぶしを作って言うのだ。

「まず、てめぇはこれがなんのゲームのログインデバイスか知ってるか?」

「え、あれだろ、えーと……AWMだっけ?」

「そう!All World My hands《オールワールドマイハンズ》。略してAMW《エーエムダブリュー》だ!死ぬほど人気で発売して数年が経つのにまだこのログインデバイスは転売が横行するぐらい人気なんだぞ!?しかも、1台定価40万!転売価格200万!」

「ぶふっ」

 マジか、それが2台?400万?すげぇ。

「ん?……でも、そんな高いのになんで流行ってるんだ?もはや富裕層じゃないと買えないだろ、それ」

「マージでてめぇは何にも知らねえなァ。よし、俺にすこーしばかり講釈垂れさせてくれよ」

「お、拝聴いたします。大先生」

 皇がそう正座をすると、薊はこほん、と咳払いをするのだった。

「あー、All World My hands。通称AWMはかなり自由なゲームだ。まず、ストーリーつーのが存在しねえ。だから、なにに左右される事無く自由にやりたいことだけをやれるフルダイブゲームだ」

 フルダイブゲーム、それはデメテールを筆頭に仮想現実にプレイヤーを送り込むシステムを使用したゲームの総称だ。

「……ストーリーが存在しない?それは目的がないのと同義じゃないか?」

「かーっ、頭がかてぇなァ!てめぇは!ストーリーがないから冒険しようがスローライフしようが自由なんだよ。要は、現実世界とは違う人生のもう一週目ができる。画期的なゲームだ」

 そんな薊の講釈に皇はデメテールを見下ろした。現実とは違う人生のもう一週、そう言われて魅力的じゃない筈がなく、皇はデメテールを指で突く。

「あとは極めてリアリティがたけぇ!最近の低予算フルダイブゲームにありがちなローポリ、同じ反応を繰り返すNPCなんてこの世界にはいねェ!かくいう俺はNPCとプレイヤーの区別がつかなかったぐらいだ!」

(……それはお前だけじゃないのか?)

 そんな失礼なことを思いながら、皇は講釈を聞き続ける。

「しかも極めつけは……このゲームで稼いだ金はそっくりそのままリアルマネーにできる」

「ほんとでござるか~?できたとしてもゲームマネー1億稼いでリアルマネー100円とかの換金レートじゃないでござるか~?」

「じゃあ、見てみるか?先月の俺のゲーム収入」

 そう薊は言うと、リムレットのウィンドウを弄り始める。そして、皇のリムレットがなにかを受信したため、そのファイルを開けば———。

「ひゃっ、100万!?」

 皇の声は上擦った。それは、デメテールの製造元オルドデウス社から100万円の振り込みがされた薊の口座のスクリーンショットだったからだ。

「おうよ、ゲーム内で料理人としてアルバイトしててな~日本じゃねぇからチップももらえてガッポガッポだ」

(なんと……)

 皇は震える手でデメテールを持ち上げ、光に透かす。

「だから、このゲームのために借金までして出稼ぎに来るやつがいるくらいなんだぜ?俺も、買えたのはつい最近だ……いやあ、もやし生活で狂う前に買えてよかったぜ……」

(それはなんか想像がつくな……)

 でも。本当に100万もゲームで稼げるなら。このゲームを転売するより余程の利益が望める。皇はごくり、と唾を飲み、言葉を吐く。

「此処で乗らなきゃ男が廃る……よなぁ!?」

 皇のその言葉に薊の目が一際輝く。だけど、それ以上に皇の瞳が輝いていて。

「見てろよ!俺が人生の勝者になってやる!AWMに俺の人生をBETだ!」

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